知能検査とは③(WAISだけで発達障害がわかるのか?)

 結論から言います。

 わかりません!

 医療機関などでも誤解されたり、説明が足りないせいかもしれませんが、WAISやWISC(子供版WAIS)の検査結果だけで発達障害はわかりません。

 発達障害の人にWAISを実施する意味があるのか?との質問であれば

 あります!

以上が結論ですが、一つずつ説明していきます。

発達障害の言葉の定義(読み飛ばしても大丈夫です。)

 様々なところで発達障害と使われます。注意欠如多動性障害(ADHD)、アスペルガー障害(≒自閉症)、学習障害以外も該当するとする考え方もあり、発達障害が何を表すのか不明瞭なところがあります。

 この記事の中で、『発達障害』と記載したときには『ADHD及びアスペルガー障害』に限定させて話を進めさせていただきます。

WAISを実施しただけでは発達障かわからない3つの理由

  • 研究結果と同じ凹凸となるとは限らないから
  • 発達障害以外でも同じような凹凸が出現する場合があるから
  • WAISは検査実施時の結果だから

わからない理由その1 研究結果と同じ凹凸となるとは限らないから

 研究によると、WAISの検査結果でADHDやアスペルガー障害に出やすい凹凸傾向は統計上明らかにされています。但し、この結果は個別的ではなく、様々凹凸がある検査データを平均化し統計上処理された結果です。

 私の臨床経験においても、病院においてアスペルガー障害やADHDとの診断を受けた方に本検査をしたところ、研究で見られるような凹凸の傾向の違いだけでなく、少数ですが指数間に凹凸が全く見られなかった方もいました。

 難しい言い方になりますが、発達障害特性のある人は認知特性にばらつきがある(指数間に有意差がみられる)傾向が高いですが、認知特性にばらつきがあるから発達障害特性があるわけではありません。認知特性のばらつきは発達障害特性がある人にもみられますが、他の障害でも見られます。

わからない理由その2 発達障害以外でも同じような凹凸がある場合があるから

 うつ病になると、病状のせいで物事をじっくり考えたり、集中できなくなるため、不注意となりミスが増加します。対人恐怖の人は、人がいないところで作業を行うとミスは起こりませんが、人がいる中で作業を行うと人がいる影響で作業に集中できずにミスが増加します。

 上の例はケアレスミスを例にとりましたが、このミスが起こる理由によってADHD、うつ病、対人恐怖などと診断が異なります。 不注意傾向としては本検査においてとらえることができますが、その理由は別の方法で検討する必要があります。そのため、本検査だけでは発達障害特性があるか否かはわからないわけです。

わからない理由その3 WAISは検査実施時の結果だから

 もう一点は当たり前のことです。WAISは検査実施時点での状態を測定したものであり、過去のことはわかりません。

 発達障害は「先天的脳機能障害」と考えられています。つまり、幼少期(幼児や児童期)から現在まで同様の傾向が認められていることが前提となります。大人になって症状が悪化したということはあり得ません。なぜなら「発達障害=先天的脳機能障害」だからです。幼少期に認められないのに大人になって症状が顕著になる場合は精神疾患か高次機能障害に該当します。

発達障害と判断するためにはどんな情報が必要か。

 生育歴を養育者に丁寧に聴いたり、必要に応じて小中学生時代の成績表や写真などの過去の記録を持ってきていただく必要があります。アスペルガー傾向(自閉症傾向)を見る検査としてPARSという検査があります。そのような検査をすることで幼少期の行動の様子を精査することが大切になります。

 つまり、本当に発達障害か否かを検討する上では過去~現在までに一貫して発達障害に認められるような脳機能障害があるのかについて判断する必要があります。そのため、現在の状態をWAISで確認し、生育歴を聴くことで過去の状態を確認してどちらでも認められた時に初めて発達障害であると判断されます。

WAISを実施するメリット・デメリット

発達障害特性がある人にWAISを実施するメリット

 発達障害特性がある人に本検査をする意味があるかといえばあります。理由は発達障害特性がある人は認知機能のばらつきがある場合が多いためです。その人個人に合わせて、特性を理解しどのような対策をするとよいのか、どのような支援が必要なのか、どんなアプリやソフトを使うと苦手な特性をカバーでき、本来持っている力を発揮させられることができるのかを考えるための情報が入手できるからです。

発達障害でなくてもWAISを実施するメリット

 WAISはこれまでも説明した通り、その人の持っている認知機能を数値化して理解するためのツールです。そのため、自分の特性を理解することで対処しやすくなります。例えば、苦手な作業はソフトを使ったり、人によっては苦手な認知機能を使う仕事を他の人にお願いすることによって、仕事を効率的になるわけです。

WAISを実施するデメリット

時間的な負担と金銭的な負担です。検査実施するためには、最低1時間以上の時間がかかります。金銭面で考えてみると、当ルームで実施すると、1万円以上かかります。

まとめ

 WAISは認知機能を測定するツールであるため、発達障害の有無にかかわらず、実施には大変意味のあることだと思います。

 興味がある人、自分の認知機能について知りたい人や心理検査の必要性はあるものの、どこに紹介してよいか困っている相談機関の専門職の方はカウンセリングルームいちごまでご連絡下さい。

以上、心理検査オタクが在籍しているカウセリングルームいちごでした。

タイトルとURLをコピーしました