前回はIQの説明やWAIS‐Ⅳの指標について説明しました。
今回は具体的な指標の解釈方法や支援の方針の考え方について説明させていただきます。
振り返り
WAIS-Ⅳは全体的なIQを示す全体性IQと4指標(言語理解指標、知覚推理指標、ワーキングメモリー指標、処理速度指標)からなっています。個人間・個人内差の比較(他者比較や個人の中での能力比較)ができることが特徴となっており、そのことで、検査を受けた人の得意・不得意を分析していきます。
WAISの検査結果の利用・解釈方法
個人特性を理解し、日常生活への般化をする
知能検査はクライエント(相談者)の特性への理解を深めることが目的です。その結果、自分に合った仕事や作業のこなし方、人への相談方法、勉強の仕方などを考えます。また、本検査は統計的な根拠に基づいた客観的なテストであるため、必要に応じて会社や他者に個人の特性を理解してもらう資料として利用できます。一方、他者と比較してできる・できないのみに焦点を当てただけでは本検査を十分利用できたとは言えないと思います。
私がいつも大切だと考えていることは、個人間の差と個人内の差の両方を理解し、日常生活に般化していくことだと思います。
例1
処理速度が遅い場合、メールなどを作成するときに既に決まっている内容はテンプレートとして使うと良いでしょう。これは異なる部分だけを書き換えることで仕事の処理スピードを短縮することにつながるからです。もちろん、処理速度の速い人にとってもテンプレートを利用することは大変意味のあることです。処理速度が遅い人にとっては単純作業を減らすことで処理スピードの遅さをカバーできるという点で早い人よりも大切となります。
例2
指標間に個人内差が出た場合には、いずれの指標も平均(IQ=100)以上の力があっても、何かうまくいかない感じを持つことがあります。しかし、他者からすれば、指数がいずれも平均の100を超えているので、「気のせい」「考えすぎ」として判断されてしまうことになります。感じている本人にとっては自分の他の能力との比較であるため、うまくいかない感じとしてとらえられることになります。
例3
IQ=115の人が知的に極めて高い集団(例えばメンサはIQ=130以上が入会条件と言われており、上位約2%の集団です。)の中にいる場合、一般的と比較すれば上位15%のIQにもかかわらず、高い集団の中では平均以下と分類されることになるでしょう。
検査結果の利用・解釈のまとめ
ここで強調したいことは、IQ=130だから頭が良い、IQ=70だからできないとだけ理解するのではなく、困っていることを知的側面や個人内差、個人間差で客観的に理解したり、置かれている環境を推測して、問題への理解につなげ、最終的には問題の解決や緩和することに使っていくことが大切ではないでしょうか。現実的には解決や緩和までいかない場合もありますが、クライエント自身の理解する手助けにはなるものと考えられます。
番外編:IQは変わるのか?
よく聞かれる質問です。この質問について単純に答えるなら『大人になるとほとんど変わらない』というの答えです。また、教科書にもそのようなことは書かれていることが多いです。
*もちろん、問題を練習したり、答えを知っていれば正解数増えますので上がりますが、それは不正ですよね…。
但し、経験上では例外があります。精神症状重篤な場合、本来の持っている力が発揮できなくなり、低く出ることはあります。私自身のこれまでの経験でも10人を超えることはないと思いますが、一部そのような人がいました。
現実的に考えてみれば、理解できるのではないでしょうか。私たちも日常生活において徹夜明けや残業が多い時には、作業ペースが低下したり、ありえないミスをしたり…。それがより重い状態であると病気を理解すると、わかりやすいと思います。
このような例はかなり例外的です。そのため、強調する必要もないかもしれません。但し、心理検査実施を生業としている心理師としてはかなりレケースであっても、そのレアな可能性が現在支援しているクライエントに当てはまるかもしれません。クライエントにとっては心理検査を受けること自体が唯一無二の体験です。
臨床家としてそのレアケースが目の前のクライエントに起きていないとはいえないため、常に上記のようなことが起きている可能性について自問自答しながら心理検査の実施・解釈をしています。
自分の認知的な特性を知りたい方、また、ご自身担当のクライエントで心理検査を検討中のカウンセラーの方で依頼先が中々ない方はぜひカウセリングルームいちごにご連絡ください。
次回は、WAISだけで発達障害がわかるのか?についてまとめたいと思います。