はじめに
①②④(③はコラムでした)と、OCDの症状や治療、当カウンセリングルームでの進め方についてお伝えしてきました。今回は、ERP(Exposure and Response Prevention:曝露反応妨害法)という治療が「何を目指しているのか」というゴールについて書いてみたいと思います。
「治った」の誤解
ERPに取り組む方からよく聞かれるのが、「不安が完全になくなったら治った、ということですか」という質問です。
実は、ERPが目指すゴールは、不安そのものを完全になくすことではありません。不安を感じることそのものは、誰にでも起こる自然な反応です。ERPが目指すのは、**「不安を感じても、強迫行為をせずに行動できるようになること」**です。つまり、「不安がゼロになること」がゴールではなく、**「不安があっても、自分で症状をコントロールできるようになること」**がゴールだということです。この違いを最初にお伝えしておくことが、治療を進めるうえでとても大切だと考えています。
うまくいかない・中断するときに起きていること
ERPは、すべての方が順調に進むわけではありません。途中で「うまくいかない」「やめたい」と感じることもあります。これには、いくつかの背景が考えられます。
見極めが十分でなかった場合
③でも触れましたが、初回〜数回での見極めが不十分だった場合、症状以外の問題(強い落ち込みなど)が後から表面化し、ERPの継続が難しくなることがあります。
モチベーションの波
治療の途中で、症状への取り組みに対するモチベーションが下がることがあります。これは自然なことで、特別なことではありません。
不安階層表の組み方が合っていなかった場合
不安の小さいものから段階的に取り組むための「不安階層表」ですが、ステップの幅が大きすぎたり、その方の感じ方とずれていたりすると、うまく進まないことがあります。
やり方やカウンセラーが合わない場合
ERPの進め方や、担当するカウンセラーとの相性が合わないと感じることもあります。これは決して特別なことではなく、誰にでも起こりうることです。合わないと感じた場合は、率直にお伝えいただくことで、進め方を調整したり、場合によっては他の方法を検討するきっかけにもなります。このような場合、「治療が失敗した」と捉える必要はありません。むしろ、もう一度アセスメントに立ち返るタイミングだと、私は考えています。なぜ進まなくなったのかを一緒に確認し、ステップの組み方や進め方を調整していきます。
アプローチそのものを変えるという選択肢
①で触れたように、心理療法には問題解決志向型(ERPなど)だけでなく、洞察志向型のアプローチもあります。ERPがその方に合わない場合、症状そのものへの直接的なアプローチではなく、不安の背景にあるものを見つめていく洞察志向型のカウンセリングに切り替えることもあります。これはCBTの考え方とは異なりますが、その方にとって、より合った形で症状や不安と向き合っていく方法のひとつです。「ERPで結果が出ないこと」が失敗を意味するわけではなく、その方に合うアプローチを探していくプロセスだと捉えています。

ゴールは「自分で症状をコントロールできるようになること」
ERPを通して最終的に目指しているのは、カウンセラーがいなくても、ご本人が自分で不安と付き合い、強迫行為をせずにいられる力をつけることです。
不安を完全になくすことではなく、「不安があっても、自分で対処できる」という感覚——いわば自己効力感を持てるようになることが、治療のゴールです。この感覚が育ってくると、セッションの頻度を減らしたり、終結に向けて進めていくことができます。最終的には、症状をなくすことよりも、ご本人が自分で症状をコントロールできるようになることが、この治療の本質的な目的だと考えています。
※本記事における「OCD」などの病名は、症状の傾向を示す表現として用いており、診断を意味するものではありません。診断は医師のみが行うことができます。
カウンセリングルームいちご(江戸川区葛西駅徒歩3分)
北村哲也(公認心理師・臨床心理士)
